Cray~From the United Kingdom
2026.05.21
イギリスの工芸家・意匠家でもあるウィリアム・モリスが、壁紙の図案として描いたクレイ。それは大きな花が上に向かって流れています。大きな花、小さな花、太い茎に絡みつく大きな葉、小さな花。花たちが流麗に咲き乱れ、植物たちの生きる力がみなぎっているデザインです。
クレイというのは、モリスが新婚時代に暮らした家レッドハウスの近くにあった川の名。ダレント川と呼ばれるテムズ河の支流の支流です。ダレント川は全長32キロ、クレイ川は54メートル。レッドハウスから少し離れていますが、広大な緑地の小川まで歩いて出かけたのでしょうか。想像がふくらみます。1875年にモリス商会が設立されると、染色への関心が強まります。インディゴ-藍染の挑戦です。1877年の春にはモリス商会のショールームをオックスフォードストリートがオープンします。モリスのデザインがロンドンの抜き取り通りを飾ることになります。
モリスの壁紙の図案の名は他にも川の名がつけたものがあるようです。でもどうして植物のパターン模様なのに川の名をつけたのでしょうか。モリスは水辺や川の近くを好んでいたようです。青年時代に暮らしたウォルサムストウのウォーターハウスはその名に適ってバックガーデンから水路のような水辺が見えました。コッツウォルズにあるケルムスコットマナーも、テムズ河の上流の近く、工房を構えるマートンアビーもウォンドル川に面しています。水辺にはさまざまな植物がその生を育み、私たちの目を楽しませてくれています。モリスもその自然の美しさに目を留め、デザイン画に落とし込んでいったように思われます。
クレイの図案は大きく34枚もの版木を使って制作されているそうです。踊るような植物のパターンが多いモリスのデザインですが、クレイのデザインは特に花たちが大きく動いて見えます。蛇行する川の緩やかな流れが、花々と草になってパターン化されたのでしょうか。大きな花は牡丹。とても和物らしいモチーフですが、イギリスにも牡丹があったんですね。流れる茎が確かに川のように見えてきます。
※写真はクレイ川にかかるファイブアーチズ橋。持っていたクレイの柄はピンクの淡いものでした。オレンジ系、グレイ系とその色合いによって全く雰囲気が変わる不思議なデザインです。

