Young Dancer~From the United Kingdom

2025.08.20

英国コラム

何を思っているのでしょうか。コヴェントガーデンのロイヤルオペラハウスの前で見つけたバレエダンサーの像。右足のトウを立て左の脚を見つめていて、何かちょっとつらそうです。でもどうしてここにバレエダンサーの像があるのでしょうか。実はロイヤルオペラハウスはオペラだけの劇場ではないのです。ここはイギリスのロイヤルバレエ団の本拠地。ロイヤルバレエ団は世界3大バレエ団の1つで、このロイヤルオペラハウスを本拠地としています。ロイヤルと冠されているので名誉総裁はもちろんロイヤルファミリー。皇太子時代のチャールズ国王がその任にあたっていましたが、今はどうなのでしょうか。

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ロイヤルオペラハウス横のフローラルストリートという名の細い道を隔て、ロイヤルバレエ団のスクールがあります。通りの上を見上げると、ロイヤルオペラハウスとロイヤルバレエスクールを結んでいる渡り廊下があります。それは「夢の架け橋」と呼ばれているもので、ロイヤルバレエスクールで学ぶ学生たちはいつかトップダンサーとなってこの橋を渡る、そんな思いを持ってここを見上げるそうです。その「夢の架け橋」の下にはSTAGE DOORと書かれた楽屋口があります。舞台に立ってこの楽屋口から出入りする、そしてそれが主役である日をダンサーたちは夢みて厳しい練習を続けていることでしょう。でも主役は1人。この像のバレエダンサーは役をもらえたのでしょうか。自分の脚を解しながら何を思っているのか、とても気になります。

この若いダンサーの像は、イタリア人の彫刻家エンツォ・プラッツォッタによるブロンズの作品です。プラッツォッタはバレエダンサーの作品も多いようで、ロンドンのミルバンクにはバレエのジャンプのジュテを跳ぶ男性のダンサー像もありました。このジュテの像の前はもう何回も何回も通っているのに像に気づいたことはありませんでした。ロイヤルオペラハウスのダンサー像も見過ごしてしまいそうな舗道の一角にあり、どうやら彼女はロイヤルバレエスクールの方向を向いているようです。

バレエダンサーもトップになれる人は選ばれたひと握りの人たちだけ。バレエだけで生活していくのも大変なことです。華やかな世界の裏側の辛さをこの若いダンサー像も気づき始めてしまったのでしょうか。その寂しい気持ちもダンサー像から見えてきそうです。でも小さな少女がダンサー像に寄ってきました。ダンサー像の手をそっと指で触っています。少女は最初おずおずと、でもだんだんと慣れてきてダンサー像にしがみついてしまいます。そして脚を高く上げて笑顔です。最後にはダンサー像と腕を組んで、とてもご機嫌な顔を見せてくれました。

バレエを習う人たちはこのダンサー像を訪れているようです。無名の若いバレエダンサーがモデルとなったこの像。今日も訪れる人たちに力を与えてくれているようです。

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