The Pilgrim’s Rest~From the United Kingdom

2025.05.25

英国史雑学

また難しい単語です。Pilgrim―ピルグリムなんてこんな英単語は、見たことも使ったこともありません。実はこの言葉、ウィリアム・モリスの家で見つけました。意匠家・工芸家のウィリアム・モリスが若き日に暮らした家、レッドハウス。その家の1階の廊下の突き当りに扉があります。その先にビルグリムズレストはあるのです。

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ビルグリムとは巡礼者のこと。聖地から聖地へ赴いて、その教えを高めようとする宗教の儀礼です。イスラム教徒はメッカを、仏教の僧たちもブッダの聖地を訪れる旅に出ます。キリスト教徒の聖地は宗派で変わりますが、カトリックではバチカンでしょうか。多くの宗教の中で行われている巡礼は、私たちの初詣やお参りに出かけることとつながっているのでしょう。でもモリスの巡礼とは何を意味していたのでしょうか… 調べてみました。

モリスは中世に憧れ、14世紀の詩人ジェフリー・チョーサーの書いた「カタンベリー物語」を愛読していました。「カンタベリー物語」はとても長いお話です。ロンドンから聖地のカンタベリーまで巡礼をする多くの者たちが登場します。さまざまな職業を持つ巡礼者のエピソードが旅を続けながら語られています。レッドハウスのあるベクスリーヒースは、巡礼者たちがカンタベリーに向かうためルート上にありました。だからこの場所を新居に選んだのか、そんなところもモリスのこだわりが伺えます。

さてレッドハウスの「巡礼者の休息所」と名づけた場所は、庭へ向かうポーチにあります。1階の廊下の突き当りの扉のむこう、そこが「巡礼者の休息所」。外観と同じ煉瓦の壁にたくさんのタイルが背もたれに貼ってあります。モリス自ら描いたタイルはもう色褪せてしまっていますが、かつては鮮やかな青と黄色で彩られていたようです。そこにはモリスのモットーの―Si je puis(英語でIf I can―私ができるなら)の文字も見えます。美しいガーデンは強い陽ざしの日もあれば、土砂降りの日もあります。巡礼を続ける旅人たちにもそんな日があることでしょう。巡礼者たちのためにモリスは安らぎのベンチをそこに設けていたようです。モリス自身もこだわりの美を求めるための巡礼の旅を日々続けていたと思われます。いつも自分自身に―私ができるなら-を問いかけながら、いっときたりともモリスは休息などしたこともなかったはずです。でも今は穏やかな日に、このベンチに座って安らぐモリスの姿が目に浮かんでくるようです。