The Rowan Tree~From the United Kingdom
2023.04.28
これは私たち日本人もよく知っている樹木です。The Rowan Treeは秋になると真っ赤に紅葉するナナカマド。初夏に白い清楚な小花をつけ、やがて赤い実をつけその葉も赤くなります。秋なると軽井沢でナナカマドをよく見かけます。晴れ渡った青い空に赤い葉がよく映えるのでとても目立ちます。
今回はナナカマドではなく、この歌のお話をご紹介します。「The Rowan Tree」という美しい歌があります。これは黒澤明監督の映画の名作「生きる」を、イギリスでリメイクした映画の中で歌われています。映画「生きる」の有名なシーン、映画の名場面でよく紹介されています。余命わずかと知った市役所職員の主人公。最後を物語るシーンでブランコに乗り歌を口ずさみます。「♪いのち短し~恋せよ乙女♪」と切ない声と揺れるブランコ。多分ブランコは主人公の心臓なのでしょう。自分の命を幸せな時間のまま終わらせたい、その幸福が生きていることの証と知る主人公。1952年のモノクロの画像ながら、その哀切はリアルに伝わってくる作品です。
その名作が2022年秋、カズオ・イシグロ氏の脚本で映画がイギリスで封切られました。黒澤監督の名作を遜色なく制作された「生きる LIVING」。見せ場の歌が日本のものだったので、何になるのか気になっていましたが、映画を観るとスコットランドの伝統的な歌「The Rowan Tree」になっています。とても長い歌なので一部の歌詞をご紹介します。数多くの歌を作ったスコットランドのカロライナ・オリファントの作品のひとつです。
Oh! rowan tree, oh! rowan tree,
Thou'lt aye be dear to me,
En twin'd thou art wi' mony ties
O' hame and infancy.
Thy leaves were aye the first o' spring,
Thy flow'rs the simmer's pride;
There was na sic a bonnie tree
In a' the countrie side.
Oh! rowan tree.
How fair wert thou in simmer time,
Wi' a' thy clusters white,
How rich and gay thy autumn dress,
Wi' berries red and bright.
On thy fair stem were mony names,
Which now nae mair I see;
But thy're engraven on my heart,
Forgot they ne'er can be.
Oh! rowan tree.
古い英語が入っていますが、何となくわかりそうな単語です。また郷愁を誘うメロディの美しさに心が洗われます。余命わずかな初老の男性の切なさと、命の大切さが伝わってきます。
「生きる LIVING」で主役を演じたイギリス人俳優のビル・ナイは、映画「ラブアクチュアリー」、「アバウト・タイム 愛おしい時間について」など、数々の映画に出演していて、とても好きなイギリス人俳優です。今回ビル・ナイはアカデミー賞の主演男優賞を残念ながらブレンダン・フレイザーに譲りましたが、その好演は高く評価されました。脚本を手がけたカズオ・イシグロ氏がビル・ナイのキャスティングを提案したというお話も驚きです。クロサワ映画は古くてとても長い作品ですが、「生きる LIVING」と「生きる」。機会があればどちらもご覧になってみてください。