With chips, or mashed potatoes? ポテトストーリー

2019.11.20

異文化理解



イギリスでホームステイしていた頃、夕食にパンが出ないことが不思議でした。イギリスの人々の主食はパンだと思っていたのに、朝のトーストとお昼のサンドイッチで食べるだけ。
その代わり、どんな料理にも、手を変え品を変えジャガイモが登場します。そう、実はイギリス人の“staple food”(主食)は“potato”だったのです。

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ジャガイモは南米アンデス高原を原産地とするナス科の植物です。新大陸を発見したスペイン人により15世紀から16世紀にかけてヨーロッパに伝えられました。インディアン部族の言葉、“batata”がスペイン語の“patata”に変化、それがイギリスに伝わり“potato”と呼ばれるようになったとか。しかし、当初は調理法がわからず食中毒を起こすことも多く、「悪魔の植物」と呼ばれる時代もありました。そのため食用ではなく観賞用に栽培されていたとも言います。
それでも、寒さに強く、収穫率が良いジャガイモは、戦争と飢饉がくり返される18世紀のヨーロッパで、人々の命を支えてきました。イギリス全土に現在のように広く普及したのは19世紀中ごろ。美味しいけれど、毒をもつ、そんなジャガイモは紆余曲折の末、現在では食卓に欠かせない食材となりました。有史以来、愛されているのかと思いきや、ジャガイモが主食の座についたのはずいぶん最近の話なのですね。

さて、主食である“potato”の調理方法はバリエーション豊かです。
シンプルに茹でただけの“boiled potatoes”、ローストビーフやローストチキンには“roast potatoes”が欠かせません。
ゆでたジャガイモをつぶしてバターを加え、ミルクや水でのばした“mashed potatoes”。
皮ごとオーブンでじっくり焼いたホクホクの“baked potato”、これはイギリスでは“jacket potato”と呼ばれています。ジャガイモの皮を上着に見立てた、なかなか粋なネーミングです。

ところ変われば言い方が変わるのが、ファーストフードでおなじみのフライドポテトです。
アメリカでは“French fries”、イギリスではフィッシュ&チップスでおなじみの“chips”です。アメリカで“chips”と言うと日本で言うポテトチップスが出てきます。一方、イギリスでは“crisps”(クリスプス)という耳慣れない、そしてちょっと発音が難しい単語がポテトチップスを指します。少々ややこしいですね。
ちなみにfried potatoは油で調理したジャガイモ料理全般のこと。丸ごと揚げたジャガイモをイメージされてしまうかもしれません。

ところで、couch potato(カウチポテト)という表現をご存知ですか?日本でも一昔前に流行った「怠け者」を意味するフレーズです。「カウチ(ソファーの一種)に寝そべり、ポテチを食べながら、テレビをだらだら見ている人」、あるいは「カウチの上でジャガイモのようにじっとしている」様子を思い浮かべてください。
一見、和製英語のようですが、アメリカで生まれた英語表現です。他にも、野菜や果物を使ったイディオム表現は数多くあります。

例えば、
“carrot and stick”(飴と鞭)
“go bananas”(熱狂する、怒り狂う、興奮する)
“as cool as a cucumber”(冷静沈着、落ち着き払って)

なぜニンジンが飴なのか、なぜバナナに興奮するのか、なぜキュウリが冷たいのか。
それぞれの語源を考えるのも興味深いですね。