ロンドンの街歩きの愉しみ-ブループラークを探してみよう

2025.12.23

英国史雑学

イギリスの街を歩いていると青く丸い銘板が目に入ります。これはイングリッシュヘリテージが著名人のかつての住まいなどに掲げているもの。ロンドンの街歩きではよくこの青い銘板―ブループラークを目にします。どんな人が目の前の場所に住んでいたのか、想いを巡らせながら街を歩いてみましょう。ロンドンではブループラークでたくさんの発見ができます。

Red House built in 1859-1860

  • Red House built in 1859-1860

このブループラークは人ではなく、家に与えられています。レッドハウスは意匠家・工芸家でもあったウィリアム・モリスが新婚時代に住んだ家です。レッドハウスは1859年から60年にかけて、ロンドン郊外のベクスリーヒースに建設された特別な家です。

レッドハウスの名の通り「赤い家」、赤煉瓦のL字型の邸宅。モリスの友人の建築家のフィリップ・ウェッブとの共同設計で、モリスの理想を全て積み重ねた家を実現しています。赤い瓦の高い屋根、白枠の上げ下げ窓に丸窓、外観にもこだわりがあり、見ていても飽きない家です。

玄関の扉にはモリス作のステンドグラスの光が入ります。アームではなく、扉の上部が尖った大きな扉から入ると、吹き抜けの重厚な階段が迎えてくれます。1階はダイニングルームと2つの個室、キッチン、ストアルーム、パントリー、洗い場、2階はドローイングルーム、3つのベットルームと2つの個室に、メイドルームも用意されています。壁紙や家具を仲間たちと造り上げている若き日のモリスが浮かんできます

  • Red House built in 1859-1860

けれどこの家、ロンドン中心部から遠過ぎました。鉄道の開発も進んでいましたが、最寄り駅の開業は1895年まで待たなければなりません。遠くの鉄道駅と馬車を使って4時間の通勤、そして暖がとれないレッドハウスで、モリス自身も身体を壊してしまいます。医師の往診もままならないため、とうとうレッドハウスを手放す決心をしてしまいます。理想を積み込んだはずなのに、現実には勝てません。

レッドハウスにモリスが住んだのはわずか5年。しかしモリスはレッドハウスを建てたことで、家具や内装などを手がけるモリス商会の設立につなげていきます。夢の家は現実には勝てませんでしたが、そのモリスの力は遺憾なく発揮されて、今の私たちの生活にも反映されています。