椅子の脚もいろいろ イギリスのアンティーク家具の脚ってどんなもの???

2024.03.22

異文化理解

日本のクラシックホテルで猫脚のバスタブでゆっくりとお風呂に入る、そんな憧れ、ありました、ありました。そんな夢をかなえに軽井沢の万平ホテルに女子会で出かけたこともあります。でも猫脚ってバスタブの脚かと思っていたら、そうじゃないそうで、家具の脚の名称らしいのです。それで調べてみました。イギリスのアンティーク家具とその歴史を、椅子の脚を中心にご紹介していきましょう。

猫脚は英語で何…?  Cat Legではないようです

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イギリスのアンティーク家具の脚ってどんなもの???

イギリスのアンティークは100年以上経ったものではないと、アンティークとは呼ばないそうです。日本なら古過ぎると言って使わない家具もイギリスでは大切なお宝。古いものでも大切にし、長い間きれいに使っています。でも猫脚の英語はないそうで、Cabrioleと呼ばれていました。元々カブリオルはフランス語で、18世紀にはこのスタイルの椅子が造られていました。

カブリオレアームチェアと呼ばれていたこの椅子は、貴族のために広く座るところを造っていました。椅子に対して前の脚2本を外側に向けていたのが、この時代のルイ15世の家具の特徴にもなりました。快適さを追求するために、ゆったりとした椅子を設計したようです。

外に向けた2本の前脚のカブリオレスタイルにも、いろいろと種類があるようです。クロウ&ボールと呼ばれるclawとball―爪と珠は幸運の象徴。しっかりと知恵の珠をつかむ鳥獣の爪を造り上げました。元々は中国の縁起物の竜と珠がモチーフだったようです。猫の脚ではボールは転がせるだけで、つかむことはできません。

※写真はヴィクトリア&アルバート博物館の18世紀のアームチェアと、ウィリアム・モリスの邸宅レッドハウスで見つけたウィングチェアの脚。暗くてわかりづらいのですが何かをつかんでいます。


イギリス家具の歴史をアン女王の時代からひも解く

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18世紀のイギリスのアン女王の時代、クィーンアンスタイルと呼ばれる家具がイギリスの家具の時代を築きました。アン女王の治世は1702年から1714年。18世紀の始まりです。猫脚-カブリオレレッグはやわらかな曲線を使い、背もたれにも花瓶のモチーフの曲線で仕上げています。腰に負担のかからないクィーンアンスタイルのチェアの座り心地はとても人気になり、今でもリプロダクション―再生産されています。

家具職人の登場

18世紀の半ばになると家具職人たちの名でアンティーク家具が出てきます。トーマス・チッペンデールがその最初です。トーマス・チッペンデール様式は、猫脚や爪が珠をつかんでいる脚が多く見受けられます。フランスのロココスタイルや、中国を意識したデザインも取り入れています。次にロバート・アダムが登場します。中世の邸宅にアダム様式の家具を取り入れ、ドームや婉曲したデザインを編み出していきます。椅子の丸い背もたれ、優美な曲線を描いた椅子の肘も見受けられます。
その他にもジョージ・ヘッペルホワイト、トーマス・シェラトンから、19世紀のウィリアム・モリスと、名立たる家具のデザインが生まれます。

時代毎の椅子の特徴

15世紀末から19世紀には、背面にアラベスク-イスラム芸術を取り入れた椅子が造られています。背面の中央に伯爵家の紋章を入れた椅子も残っています。
17世紀前半には背もたれを高くしたハイバックチェア、背もたれがはしごになったラダーバックチェアが登場。シンブルで実用性のあるデザインに変わっていきます。

18世紀に入るとクィーンアン様式をはじめ、チッペンデール様式、アダム様式、ヘッペルホワイト様式、シェラトン様式と、家具職人たちと家具デザイナーたちの名を冠する個性的な椅子が登場してきます。

19世紀のヴィクトリアンスタイルには、背もたれがバルーンのように丸いバルーンバックチェア、3人が違う方向を向いている低い布張りの椅子、民芸風のウィンザーチェアが造られます。農家で椅子を見たウィリアム・モリスはサセックスチェアを考えます。素朴でシンプル、そして使いやすい椅子は、モリスの住んだ家に残っています。機械による大量生産を嫌ったモリスの考え―アーツ&クラフツ運動の産物は、生活のための家具を産み出しています。

また今でも家具のリプロダクションされているウィンザーチェア。16世紀にはこのカタチはあり、1724年にはバ―クシャ―のウィンザーからロンドンに出荷されていったようです。ウィンザーの名で今では世界中で造られ、使い続けられている伝統の椅子です。

※写真はヘッぺルホワイトらしいスタイルの椅子と、ウィリアム・モリスのサセックスチェア。


19世紀のアンティークのスタイルは

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イギリスの家具や建築の様式にはチューダー、エリザベス、ジャコビニアン、カロリアン、ウィリアム&メアリー、クィーンアン、ジョージアン、ロココ、ネオクラシカル、リージェンシー、ヴィクトリアン、アーツ&クラフツ、アールヌーヴォー、エドワーディアン、アールデコといろいろと時代毎にそのスタイルは展開されていますが、ここではイギリスでアンティークと呼ばれる時代、19世紀のスタイルをご紹介していきましょう。

リージェンシー

リージェンシーとは摂政の時代を意味し、国王ジョージ3世の晩年に病気で公務が果たせない時代をそう呼んでいます。1811年から崩御する1820年まで、皇太子のジョージ4世が摂政として公務を担った期間と、その後1837年にヴィクトリア女王が即位した期間までをリージェンシーと包括しているようです。

ジョージ3世の最晩年とジョージ4世、ウィリアム4世の時代のリージェンシースタイルには、踊るように広がったテーブルの脚や、デザイナーのトーマス・ホープによる疑似古典的な重厚なスタイルの椅子が残っています。重く動かしにくい椅子の脚にも動物の脚の装飾を施し、エジプトスタイルを好んでいたスタイルが見受けられます。

ヴィクトリアン

ヴィクトリア女王の治世は64年間。20世紀の初頭まで続きます。アンティーク家具と言えばヴィクトリアンスタイルの文字を思い浮かべがちですが、ヴィクトリアンは前期・中期・後期と一括りではなく社会の情勢で分かれています。家具などはアーリーヴィクトリアンとレイトヴィクトリアンと括られています。それでも1837年からのアーリーヴィクトリアンと、1880年頃からのレイトヴィクトリアンではまた違うスタイルを持っています。

アーリーヴィクトリアンではリージェンシーの重厚なスタイルから、やわらかな曲線を用い始めます。細やかな装飾や古典的なモチーフの家具が産み出されています。背もたれが丸くバルーンのような曲線のバルーンバックチェアも登場しています。レイトヴィクトリアンでも過去の家具職人たちのスタイルを踏襲しながら、特に新しいスタイルのものは生まれてきてはいませんが、実用的で使いやすい椅子が誕生しています。

アーツ&クラフツ

この名は時代ではなく、18世紀の中頃から高まってきた美術と、工芸の運動の中から生まれた家具や装飾品のスタイルを呼びます。時代はレイトヴィクトリアンと重なります。前述の「時代毎椅子の特徴」のウィリアム・モリスの手によるサセックスチェアをはじめ、使いやすく機能的な椅子が造られています。モリスは機械による大量生産を嫌っていましたので、レイトヴィクトリアンと呼ばれる家具とはまた趣きは異なるようです。

※写真は19世紀のロセッティチェアと、ヴイクトリア時代後期1899年頃のライト&マンスフィールド社製の椅子。


ロンドンはアンティーク家具の宝庫

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なかなか椅子の脚元まで見る機会はなかったかもしれませんが、イギリスを訪れた際には椅子の脚にもぜひ注目してください。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、ミュージアム・オブ・ザ・ホーム―家の博物館では興味深い展示が観られます。

ロンドンのサウスケンジントンにあるヴィクトリア&アルバート博物館は、その多岐にわたるコレクションと、展示品の多さに1日では到底回り切れません。それでも家具はいくつかの場所に分かれていますが、その場所さえわかれば効率よく観ることができます。椅子たちはレベル4のFANITUREとその下のレベル3のBritish Galleriesに展示。ヴィクトリア&アルバート博物館は回廊になっていて、上階への行き方は最初迷いそうですが、階段を見つけて昇っていくしかありません。デジタルマップも用意されているので、来館前に一度見てご確認した方がよさそうです。

またダイアナ元皇太子妃たちのお住まいだった、ケンジントンパレスの家具や調度品にも目を見張ります。ケンジントンパレスは17世紀に建てられた邸宅で、17世紀のメアリー1世、18世紀アン女王たちをはじめ、19世紀のヴィクトリア女王がご幼少時のお住まいにされていました。ここではティアラなどの宝飾品、ドレスからイギリスの君主たちが使われた家具も観ることができます。

次回ロンドンに行かれましたら、椅子の脚たちにもぜひ注目してみてください。椅子の脚のいろいろなカタチに加えて、お気に入りの椅子の背もたれも見つけてみましょう。