Dame Ellen Alice Terry~From the United Kingdom

2023.08.20

英国史雑学

この名まえの前についているデイム、これは英国の女性の敬称のひとつで、男性はナイトの称号を授与されますが、女性の場合はデイムを与えられます。特に長年の功績を称え女優たちに贈られています。ジョディ・ディンチ、ヘレン・ミレン、エマ・トンプソン、今の英国を代表する女優たちも、「風と共に去りぬ」のメインキャストのひとりで2020年に天寿を全うしたメラニー役のオリビア・デ・ハヴィランドもこのデイムの称号を持ち、称号が名まえの前についています。

今回は19世紀から20世紀にかけて活躍した女優、エレン・テリーをご紹介します。

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エレン・テリーは19世紀の半ばの1847年に俳優一家に生まれ、8才で初舞台を踏みます。16才でヴィクトリア時代の画家、ジョージ・フレデリック・ワッツの画のモデルを務めます。右手に椿、左手に菫を持ち、その椿の香りを心底から感じ取ろうとしている無垢な姿、<選択(エレン・テリーの肖像)>に、エレン・テリーの姿は残されています。ワッツは30才以上も年上でしたが、エレン・テリーを妻にします。しかし1年も経たないうちに結婚は破綻。エレン・テリーは建築家と駆け落ちしてしまいます。

それから数年の後、またエレン・テリーは舞台に立ちます。その後の彼女の半生は、俳優のヘンリー・アーヴィングとシェークスピアを演じます。そしてイギリスで代表的な女優となっていきます。ワッツの画に残される純真無垢な姿から、マクベス夫人の気丈さ、その狂気を演じる姿。1889年に画家のジョン・シンガー・サージェントによって描かれた、<マクベス夫人に扮したエレン・テリー>はまるで別人です。晩年には映画にも出演、さらに舞台にも立ち続けます。

彼女の眼は青白く、深遠を漂うような色をたたえていました。その鼻も人より少し長く、それも彼女の魅力のひとつでした。華やかな舞台とは裏腹に、本を読むことを好み、散策を日課としていたようです。地味で質素な実生活。彼女の言葉にこうあります。「俳優の一は想像力、二は個性、三は学び努力すること」。外面ではなく内面を磨くことによって、その演技の幅を広げていました。でもこの言葉、俳優の世界だけではなく、全ての表現の世界に通じる言葉かもしれません。

※画家ワッツの描いた16才の無垢な少女、<選択(エレン・テリーの肖像)>をナショナル・ポートレート・ギャラリーのモニターで見つけました。