Old Shepherds Chief Mourner~From the United Kingdom

2022.11.22

英国史雑学

何とも胸打つ1枚の画。木の棺の上にはキルトらしいものとブランケットらしい布がかけられ、一匹の犬が切なそうにブランケット匂いを感じています。

  • Old Shepherds Chief Mourner~From the United Kingdom

その布には飼い主の匂いが残っているのでしょうか。この画のタイトルは日本語では「老羊飼いの喪主」。牧羊犬として飼い主とずっといっしょにいたのに、今この犬は亡き飼い主の喪主となってしましました。

この画を書いたのは、イギリスの画家、エドウィン・ランシア。19世紀のイギリスの動物画家として、最高の画力を持っていました。犬を描かせたら、ランシアをしのぐ者はいなかったと言われています。まだ新婚のヴィクトリア女王とアルバート公の近況を描いた画にも、アルバート公の狩りの後の一室が描かれています。獲物になった鳥たちの横に狩猟犬たちが、アルバート公に尻尾を振って一心に構ってもらえるのを待っていますが、アルバート公はヴィクトリア女王と見つめ合ったままです。光にあふれる宮殿の一室と、うら寂しい羊飼いの一室。でも犬たちが飼い主に求める愛情は同じなのでしょう。

さて「老羊飼いの喪主」の画に戻りましょう。ほの暗い老羊飼いのその部屋は雑然としていますが、その場所の空気は澄み切っています。床に転がった杖、帽子、小さいテーブルの上の聖書と眼鏡。棺の上には花はなく、緑の葉と枝にあり、そこには光があります。この主はこれらのものをもう使うことはなく、この世を去ってしまいました。もういない老羊飼い、そしてこの犬は、これからどうなったのでしょうか。やり切れない思いでいっぱいになってきます。この現実を犬は理解できないでしょうが、でも犬は願っています。またいつか老羊飼いと出会える日を、この犬が祈っているように思えます。

※写真はこの画が収蔵されているヴィクトリア&アルバート博物館の絵画の部屋。たくさんの収蔵品があり、残念ながら、この日この画を見つけられませんでした。またぜひこの画を探しにロンドンに出かけたいと思います。