英国貴族の年収はどのくらい??? ヴィクトリア時代にタイムトラベルしてみましょう

2022.08.07

英国史雑学

英国の貴族の生活、いったいどんなものなのでしょうか。大きな邸宅に住み、優雅な生活を送っている、その姿に憧れをいだきます。でも実際に貴族はどんな生活を送っていたのでしょうか。貴族には公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の爵位があります。それぞれDuke、Marquess、Earl、Viscount、Baronと呼ばれ、準男爵は一代貴族、BaronとBaronessになります。一代貴族以外は世襲制で、代々の土地と財産を継承していきます。

王族と同じで継承者は男子が優先。The Heir and the spare、世継ぎとそのスペアをもうけることが、貴族夫妻の第一の務めになります。受け継いだ土地と財産を守り抜き、次の世代へと託していかなければなりません。そして大切な義務のひとつに、ノブレス・オブリージュがあります。富める者たちは貧しき者たちに恩恵を施すこと、寛大な慈悲の心も擁さなければなりません。まずは貴族の家に生まれた子どもたちの生活を、ヴィクトリア時代へ遡ってご紹介しましょう。

英国貴族の子どもたちの1日のお食事は??

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上流階級の子どもたちは、基本的に熱を通したものをいただきます。甘いもの辛いものなどもあまり食卓に上がることはなく、子どもは子どものための食事をしていたようです。子どもたちのために消化のよい食事が優先されていたようです。一例をご紹介します。

朝食/オートミール・バターのパン・茹でたベーコンとハム・ミルク
昼食/焼いた羊肉か魚・プディング
夕食/ビスケット・ミルク


夕食が少ないようですが、6時か7時くらいの夕食前の4時頃のお茶の時間に、ティフードと呼ばれるおやつをしているからです。ティフードはバターのパンにジャム、スポンジケーキにミルクなどで、子どもは紅茶をいただきません。次にご紹介するのが、労働者の子どもの1日の食事です。

朝食/トースト・ティ
昼食/スープ・焼いた肉・ティ
夕食/焼いた魚・パン・ミルク・ビール


夕食にビールは驚きですが、実は貴族の子どもたちもビールを与えられていたようで、栄養を考えていたのでしょうか。夕食のパンには甘い糖蜜トリークルをつけてデザート代わり、昼のメニューは給食があるところもあり、この給食で栄養を摂らせていたようです。

貴族の子どもたちが夕食を済ませると、次は大人たちの夕食。肉や魚を焼いたものを何種類かとパン、ワインとビールをいただいていました。子どもたちの食事は質素ですが、これが貴族の教えにもなり、贅沢をしない、質実剛健な生活を営むよう躾けられていたようです。

貴族たちのお風呂はどうしていたの??

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19世紀の初めには、人々は手足しか洗わなかったようですが、1869年に発行されたエチケットの本に入浴が推奨されます。特に若い娘には夏は日に2回の入浴を勧めています。1880年のガス湯沸かし器の発明まで、自室のバスタブにメイドが湯を運んで入浴をさせます。特に子どもの部屋は上階が多かったので、メイドたちのお湯沸かしとお湯運びも大変だったようです。もちろん大人も子どももトイレも自室で済ませます。チェンバーポットと呼ばれるおまるを使っていました。

時には観光地のバースで温泉に浸かることもしていたようですが、これは身体を清潔にするものではなく、湯治。温泉に浸かって身体を癒していたようで、女性も男性も湯浴みの服を着て湯に入っていたのを、昔の映画で観たことがあります。湯浴みの服を着ていても、女性の頭には羽飾りの帽子が。これもマナーだったのでしょうか。

貴族の家の使用人たち

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イギリスのドラマ「ダウントンアビー」でも注目されたお屋敷の使用人たち執事、従者、家政婦長、侍女、料理長、厨房メイドなどなど、ほんとうに大勢の使用人たちが働いていました。では誰がどんなお仕事をしているのか、その一部をご紹介しましょう。まずは主人に仕える男性のお仕事から…

家令/house steward

主人に一番近い上級使用人が家令です。領地と屋敷の管理の責任者でもありました。ランドスチュワードとハウススチュワードと、領地と屋敷が大きい場合は二人の家令が分かれて管理していました。

執事/butler

元々はワインの管理者だったと言われる執事。チャールズ皇太子に仕える執事は下着にもアイロン、靴下もすぐに履けるように特別なたたみ方をしていました。いろいろな主人のお世話がありそうです。

従者/servant

主人とともにどこにでも出かけ、こまごまとした用事をしていました。つねに主人とともにいるので従者と呼ばれるわけです。大概は執事が兼務していたようです。

従僕/footman

フットマンは元々馬車のそばにいて主人サポートしていたそうです。お客様の対応が多いため、見栄えの好い人が雇われていたそうです。家格を見せつけるための役割もあったようです。

ホールボーイ/hallboy

ボーイと呼ばれる少年たちは雑役をさせられていました。屋敷内の雑役は大変な仕事です。例えばチェンバーポット、おまるの始末… ヴィクトリア時代にはまだまだウォータークローゼットなどなく、使用人たちが片づけていました。

他に御者のcoachman、庭師のgardenerたちが働いていました。猟場番人のgamekeeperは主人が狩りに出かける時は大忙しでした。余談ですが、王室にはかつてwhipping boyと呼ばれる少年がいて、王子が悪いことをすると代わりにお仕置きを受けていたそうです。優しい王子に仕えれば仕事はさほど大変ではありませんでしたが、冷酷な王子だと… それは大変なことになります。
次に女主人に仕える女性たちのお仕事をご紹介します。

家政婦長/house keeper

女性使用人の上級使用人がハウスキーパー。女主人の直属で時には代理も務めます。直接家事をするわけではなく、そのお屋敷の管理をするお仕事です。

レディースメイド/lady's mai

女性家族の面倒をみる役割で、女性使用人の中では上の方に属します。女主人の衣装、宝飾品の管理をし、身近な存在で、若くてきれいな人が就けたようです。

パーラーメイド/parlour maid

おもに食事の給仕、来客の接待などを担当の専門職のポジション。このポジションも若くてきれいな人が採用され、黒いロングドレスに白い襟、レースのエプロンのメイド服を着用しています。

チェンバーメイド/chamber maid

チェンバーはおもに寝室のこと。お屋敷内の寝室他の部屋の清掃整備を行う仕事です。毎日のベッドメーキング、室内と洗面所の掃除はホテルの仕事と同じ。ホテルの客室係はチェンバーメイドと呼ばれています。

スカラリーメイド/scullery maid

洗濯専門のランドリーメイドの他に、厨房で皿や鍋洗いの水仕事をするためのスカラリーメイドがいます。キッチンメイドより立場は下で、時にはゲームキーパーたちの獲物の鴨の羽をむしり、メイドの中では大変な役割を担っていました。

料理人たちはコック長をはじめ、厨房で働く男性の使用人たちは女主人の配下。キッチンメイドが厨房の全般の仕事に当たりました。また子どもたちの世話をする乳母のnurseがいて、子どもたちが増えると子守のnurse maidが補佐していました。

ロンドンのバッキンガムパレスの別館とまで言われる高級ホテルは、元々はあるお屋敷に勤めていた執事とパーラーメイドの2人が始めたものでした。執事と小間使いとしてのノウハウをホテル経営に活かし、その名を後世に残しています。

貴族にはそれぞれの宝冠

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国王や女王が戴冠式に臨む時、貴族たちはコロネットと呼ばれる宝冠とガウンを着て参列します。王冠は1つですが、貴族たちは所有する領地では一国の王、それぞれの宝冠を持っています。公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵にはそれぞれ決められた宝冠のカタチがあるようです。この時代の貴族たちは、ヴィクトリア女王の戴冠式にその宝冠を持って参列します。戴冠式では女王に金糸のローブが掛けられ、十字の笏、指輪などが授けられ玉座に就きます。クラウン、王冠が女王の頭上に授けられと貴族たちも立ち上がり、それぞれの宝冠を掲げて頭に乗せます。

また宝冠はその貴族のクレストとして、紋章にも反映されます。紋章は誰でも持てるものではなく、紋章院がその人の出自を確認し、紋章のデザインを起こし、紋章官を使わし紋章を与えます。認定された紋章は永年、紋章院で管理されます。紋章冠をいだいた由緒正しき紋章は、貴族のたち矜持。宝冠とともに代々受け継がれてゆくことでしょう。

ヴィクトリア時代の貴族たちの年収は、3万ポンドほどでした。地代などの収入で貴族によってその年収は異なりますが、医師や公務員の中流家庭で約300ポンドから800ポンドの年収ですので、やはり破格の資産です。それでも土地や屋敷を管理維持していくにはお金も莫大にかかります。使用人たちの人数と給金の支出もかなり大変なことです。お金が入ることは出ていくことにもつながるというわけです。

また貴族たちは長く使えるものが好みます。購入時は高いコートでも、それを何十年と着続け、破れても使い続けます。王室御用達に携わる職人たちの言葉に、「値段は高いが、その価値はある」があります。祖父の時代からの懐中時計や鞄、古い食器類も大切に使い続け、後世に残す義務が貴族にはあります。貴族たちは莫大なお金や、広大な土地を持っていても、モノを大切に使う気持ちを持っています。何でもすぐに新しいものにしてしまう傾向の私たち日本人。モノを大切にする気持ちを、今一度再確認する必要がありそうです。