Scottish Food ―スコットランド料理って、どんなものがあるの???

2024.01.06

英国食生活

イギリスの国民食とも言われるフィッシュ&チップス。四方を海に囲まれた島国のイギリスは、魚介が美味しいことでも有名です。でもイギリスの食べ物と言えばローストビーフがまず浮かんできます。またイングリッシュブレックファストを食べていれば、何の問題もない食事だとも揶揄されてしまっているのもイギリス料理。そして「不味い」の言葉がつけられてしまうのも、イギリス料理の何とも残念なところです。

それでも意外と美味しいものがあるのもイギリス料理。今回はそのイギリスの中のスコットランドにフォーカスして、スコットランド料理のアレコレとスコットランドについてご紹介していきます。

スコットランドはどこにある??

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スコットランドはグレートブリテン島の北部に位置しています。イギリスの正式名称はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国。イングランド、ウエールズ、スコットランドを擁するグレートブリテンと、隣の島の北アイルランドが連合した王国が、日本でいわゆるイギリスと呼ばれる国です。けしてイギリス=イングランドではありません。英国と呼ばれる方も多いのも、イギリスという日本語の厄介なところから来ているようです。

さて、スコットランドですが、連合しているイングランド、ウエールズ、北アイルランドとは違い、多くの島を有しています。グレートブリテン島の北の3分の1の領土と、北海に浮ぶシェトランド諸島、オークニー諸島と、北大西洋に浮ぶアウターヘブリディーズ諸島、インナーヘブリディーズ諸島の大小のさまざまな島々から、スコットランドは成っています。イギリス領の最西端にあるアウターヘブリディーズ諸島のセントキルダの島々は、世界遺産に認定されている断崖絶壁の孤島。今は無人島になってしまいましたが、この自然と野生動物や鳥たちの宝庫の島を目当てに、このはるか彼方の地にも多くの観光客が訪れているそうです。

またグレートブリテン島のスコットランドは、ハイランドとローランド地方に分かれています。手つかずの大自然に抱かれたハイランド地方は、氷河によって形成されていった湖、恐竜のネッシーで有名になったネス湖もあります。湖はスコットランドの言葉でLoch-ロッホ。ネス湖はロッホネスと呼ばれています。ハリー・ポッターの魔法学校もスコットランドにあると設定されていて、映画ではGlencoe(グレンコー)と呼ばれるスコットランドで一番美しい峡谷を背景として用いていました。このGlen-谷もスコットランドの言葉です。ホグワーツ魔法学校へ向かう列車が差し掛かる鉄橋も、スコットランドにある実際の高架橋。ハリー・ポッターの世界を通じても、スコットランドはとても身近に感じられます。

ローランド地方にはスコットランドの首都のエディバラをはじめ、グラスゴー、アバディーン、ダンディー、スターリングの都市を有し、ローランドの名がついていますが、けして平地だけではありません。ローランドはハイランドに対する呼称で、ハイランドとローランドの境界も諸説あるようです。2022年9月にご逝去されたエリザベス2世は、王室の居城のバラモラル城でその最期を迎えられましたが、バルモラル城はハイランド地方に属しているように地図上見えますが、実はアバディーンシャーにあります。スコットランドで亡くなられた君主は、イギリスが連合王国になってから見当たりません。ハイランドとローランド地方の真ん中で、その生を終えられたエリザベス2世。スコットランドはとてもご縁の深い場所だったのだと思われます。

では次にスコットランド料理をご紹介していきましょう。

スコットランド料理のアレコレ・スープ

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北海と北大西洋の海に囲まれたスコットランド。魚介を使った定番メニューもいろいろとありそうです。まずは温かいスープからご紹介しましょう。

Cullen Skink カレンスキンク

カレンスキンクのスキンクは、スコットランドで牛のスネ肉を指すようですが、カレンスキンクはスモークしたコダラとじゃがいもと玉ねぎで作ります。どうやら牛のスネ肉でとったスープが、ただのスープに転訛したようです。牛乳で煮込んで濃厚になったカレンスキンクは、じゃがいもと玉ねぎを入れればまさにテッパンの味。コダラのスモーキーさは味を引き立てています。

Scotch Broth スコッチブロス

羊肉または牛肉で作られるスコッチブロスは、人参やカブなどの根野菜とキャベツやニラで風味づけをしています。やわらかく煮込んだ野菜と肉の旨味、そして乾燥豆と大麦の食感も楽しめるスープ。今ではハインツやキャンベルで缶詰のスープを出していますが、せっかくなのでスコットランドのバクスターズ社の缶詰を、イギリスのお土産にしてみましょう。

Cock-a-Leekie コッカリーキー

これはスコットランドの国民的スープ、葱のスープです。葱とペッパー、チキンを使って作ります。その他にも人参やセロリ、ニラなども加えることもあるようです。米や大麦などでとろみをつけて、身体を温めるスープの出来あがり。19世紀の家政本を編さんしたイザベラ・ビートンも、その本の中でコッカリーキーを紹介しています。シンプルですが、間違いのないお味のスープです。

※カレンスキンクはクリームの白いスープ、スコッチブロスは具だくさんのスープです。

スコットランド料理のアレコレ・お魚

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お魚はスコットランド料理の定番。牡蠣や帆立、サーモンが有名です。生牡蠣にスコットランドのシングルモルトウィスキーを垂らすだけで、ご馳走になってしまいます。首都のエディバラでは昔からタラをフライにして、チップス(フライドポテト)を合わせていた伝統料理があるそうで、これがフィッシュ&チップスとしてスコットランドから広まっていったのかもしれません。数あるスコットランド料理から、まずはフルスコティッシュブレックファストの定番、キッパーをご紹介します。

Kipper キッパー

キッパーは日本語でにしん。スコットランドではキッパーを燻製にして朝食でいただきます。ジャパニーズウィスキーの生みの父の竹鶴政孝氏は、スコットランド留学中にキッパーの朝食を最初は好んでいたそうですが、ポリッジと呼ばれるシリアルを煮たものやトーストとの組み合わせでは、そのうちに嫌いになってしまったそうです。確かにキッパーとミルクティがいっしょの朝食は、日本人の口には合わないかもしれません。

Finnan Haddie フィナンハディ

フィナンハディはスモークしたコダラの種類こと。コダラはカレンスキンクのスープに使われていますが、ローストまたはグリルにしていただくこともあります。ローストは火にはあぶるもので、グリルは金網で焼いたもの。まあ焼いていただくことは同じです。このコダラを牛乳で煮て朝食でいただくこともあるようで、果たしてどんなお味なのか気になるところですが、スープのカレンスキンクの野菜抜きみたいですね。

Kedgeree ケジャリー

カレー味なのでスコットランド料理とは思わなかったのですが、どうやらインドの味を熱望するスコットランドの連隊によって考案されたようです。スモークしたハドック―コダラを使い、米とスパイスを煮込んだ料理です。コリアンダーやブラックペッパー、ターメリックパウダーなどでカレー色に仕上げ、盛りつけたケジャリーの上にはお約束のように、ポーチドエッグかボイルドエッグを乗せます。

※キッパーの見た目は日本の干物と同じです。ホテルの朝食で選んだケジャリーも美味でした。

スコットランド料理のアレコレ・お肉 

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スコットランドのお肉料理の代表はハギス。でもハギスはちょっと癖があるので、女性をはじめ敬遠しがちな一品です。最近は食べやすくした進化したハギスもあるようです。

Haggis ハギス

ハギスは塩味のプディング。イギリスのプディングは、元々は牛や羊の腸に臓物を入れて調理したものです。香辛料と共に羊肉の心臓や肝臓、肺など、食肉を余すことなく作られたスコットランドのハギス。見た目の色もすごいのですが、最近はマッシュポテトなどと重ねたハギスタワーで食べやすいアレンジをしているようです。 余談ですが、トルコにもココレチという羊の臓物をローストしたものがありますが、やはり女性には不人気だという話を聞きました。

Bridie ブライディ

ブライディはスコットランドのパスティ。19世紀半ばにフォーファーという、スコットランドのアンガスにある街のパン職人が考案したものだそうです。このアンガスはスコットランドのアンガスビーフの産地としても有名です。ブライディの見た目はミートパイやコーニッシュパスティみたいですが、肉と玉ねぎ以外にじゃがいもやカブ、スウェードと呼ばれる根菜類などが入るものもあるとか。またその生地もラフパフと呼ばれる軽く薄いもので、パイ生地ではなくパイ生地に似ているものだそうです。これだけでお腹がいっぱいになりそうです。

Scotch Pie スコッチパイ

甘くないパイ、セイヴァリーパイのスコットランド代表がスコッチパイです。ポークパイは豚肉を使っていますが、スコッチパイは元々羊肉のミンチで作られていました。今では牛肉なども使っているようで、スコッチパイは別名マトンパイの名もあります。スコッチパイのその歴史は古く、中世から簡単で安くて美味しく栄養価が高いと、労働者たちの人気のフードでした。ただ贅沢なパイとも言われ、粗食を尊ぶ教会関係者からは嫌われてもいたようです。温めても冷めても美味しいスコッチパイ。今ではサッカーゲーム観戦に欠かせない一品になっているそうです。

※写真はハギスとは思えない見た目のハギスタワーとスコッチパイ

もっと知りたいスコットランド

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イギリスにはスコットランドを冠した名がいくつかあります。いくつか挙げてみましょう。

スコットランドヤード

日本の報道機関ではよくロンドン警視庁と訳されていますが、英語ではスコットランドヤードとも呼ばれています。日本の警視庁本部庁舎を「桜田門」と呼んでいるのと同じで、かつてロンドンの警察組織の在った場所がグレートスコットランドヤードという通りだったからです。正式名称はニュースコットランドヤード。国会記事堂の近くビッグベンの大きな時計が見下ろしている場所に、今のニュースコットランドヤードあります。

スコットランドフォークソング

スコットランドフォークソングと言っても、日本で使われている意味とは違います。スコットランドフォークソングはスコットランド民謡、スコットランドで長く歌われている歌のことです。日本の歌だと思っていたら、スコットランドの歌というのも案外と多いもの。それは明治の時代、スコットランド民謡に日本語の歌詞をつけたことに始まります。例えば、

蛍の光-Auld Lang Syne
故郷の空―Comin' thro' the rye

が有名です。スコットランドの音楽性と郷愁が、日本語の詩がついて今では多くの日本人に愛されている歌です。「故郷の空」はその後、ザ・ドリフターズの「誰かさんと誰かさんが麦畑」でまた有名になりました。また「アニー・ローリー」や、諸説ありますが「アメージング・グレイス」なども、スコットランドフォークソングの心和ませる歌として日本でも人気です。

スコッチウィスキー

世界のウィスキーの聖地スコットランド。ジャパニーズウィスキーの蒸留所が日本に建設されたのが1923年、竹鶴政孝氏がスコットランドへウィスキー製造のための留学をして5年後のことでした。100年以上経った今、日本で造られるウィスキーは世界的に有名になりましたが、その元はアイルランドとスコットランドです。大麦と水、ピートと呼ばれる草炭で仕込まれた原酒は樽の中で長い眠りに就きます。長い時間をかけて作られるウィスキー。スコットランドとアイルランドの人たちが、15世紀には編み出したという技術の粋です。

スコティッシュフォールド

猫好きにはよく知られている名まえです。実はスコティッシュフォールドは、今から60年ちょっと前に突然変異で産まれた猫なのです。耳が折りたたまれ、フクロウのような見た目。1961年にスコットランドのパースシャーの猫、スージーが産んだ2匹がこの折りたたまれた耳だったのです。愛らしい姿のスコティッシュフォールドですが、実は奇形なので身体的に障害も持っていました。今ではその交配は慎重になり、アメリカンショートヘアなどとのブリーディングが許されているそうです。

スコッチエッグ

茹で卵にスパイスを入れたひき肉を巻いて、パン粉をつけ油で揚げたスコッチエッグ。イギリスに行くとパプのメニューや屋台のストールでよく見かけます。手軽に美味しく食べられるのでビクニックのアウトドアのフードとしても人気ですが、でもスコットランドの名をつけていても、残念ながらスコットランドのものではないのです。18世紀半ばになろうとする1738年、ロンドンのフォートナム&メイソンで作られたのが最初のスコッチエッグ。最初から持ち帰り―テイクアウェイ用としてか考えられた一品だそうです。

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そしてイギリスのお菓子と言えばショートブレッド。日本でも手軽に買えるウォーカーズのショートブレッドチェック柄の上に、女性の手にキスをする男性の画にお気づきですか?
女性はフローラ・マクドナルド、男性はボニープリンス・チャーリーことチャールズ・エドワード・スチュワート。名誉革命でイングランドを追われた祖父と父に代わってボニープリンス・チャーリーはスコットランドのために戦いましたが、結局フローラに助けられ、国外に逃げることになりました。この画はボニーブリンス・チャーリーの願望、夢だったのでしょうか。二度と会うことのなかったボニープリンス・チャーリーとフローラ。勝利を収めてスコットランドに帰還し、フローラにお礼を告げたかったことでしよう。

※写真はウォーカーズのショートブレットのフローラ・マクドナルドとボニープリンス・チャーリーの画。実現しなかった再会のシーンが描かれています。